お知らせ
2016年12月8日
お知らせ
【献体事務室便り】凍てつく冬冷えの朝…


足元に届くかすかな陽光に、何とも言えぬ優しい温もりを覚え、ほのぼのとした気分になる候です。
今年もそんな小春日和のような情景を日々の学生緒君との関わりの中で味わうことが出来ました。

時は慰霊祭を明日に控えた夕刻の伊勢原市文化会館大ホール。厳かな中にもピーンと張り詰めた会場内は本番を待つばかりです。
そこに現れたのは茶目っ気たっぷりな男子学生。ご献体されたご家族の思いに応えるべく、自らご遺族代表の代読を申し出てくれたのが柔道部で鍛え抜かれたがっちり型のK君、細面ではあるけれど度胸のある野球部エースS君の名コンビ。普段の学業とは違い、慣れない朗読に何度も何度も原稿を読み合わせ、テンポや声の出し方の指導を受け、全身から汗を噴き出し、度重なるダメ出しを貰いながらそれでも喰らいついてくるふたり。解剖学実習室とはまた違った局面を静かに見守っていました。

正直、彼等の高揚しカチカチに緊張して焦っている姿に、私自身が『明日の本番は大丈夫かしら』と強度の緊迫感に包まれ、心の中で『学生を信じよう。学生の力を信じよう』と言い聞かせていました。

そして慰霊祭当日の朝、代読させて頂くご遺族様と初顔合わせした彼等の顔から不安という表情が全く消えています。ご遺族様と心から笑顔で接している様子が目に移り、私の目の中が曇りました。昨夜の様子は何だったのだろうか?ご遺族様の温かい愛情に包まれ、彼等の中から今までの不安や危惧していたことがすっかり消え伏せ、安堵したのでしょう。ご遺族様の代読と言う大役を見事に果たしてくれました。今も私の机には慰霊祭でご遺族様と共に写る彼等の達成感に満ちた笑顔の写真が飾られています。
後日、こちらのご遺族様から届いたお手紙には『K君、S君の重圧から来る心身の乱れなどが伝わってきて思わず涙があふれました。初めてお会いした瞬間、さわやかで実直なお人柄と直感しました。式が始まる前のわずかな間、出身地の話しや柔道・野球などの話しで和やかな雰囲気で孫と接しているような感覚でした。壇上に立った時、年齢的にはあり得ない筈なのに、いつの間にか“母親の気持ち”になって「落ち着いて…大丈夫よ!」と心の中で語りかけている自分に気づきました。二人共ひたむきで初々しいその純粋さがいとおしくてたまりませんでした。
わずかな時間でしたが、名残り惜しくて、もっともっとお話ししたかったです。お二人をはじめ、この医学部の皆様が晴れて医師になる日まで、私は元気で待ち続けたいと切に思うようになりました。今までの観念とは違う使命感のようなものを感じています…』と綴られていました。

また11月の終わりの夜遅くには、溜まった仕事を片付けていた私のところに同じく医学生のO君が訪ねてきました。聞けば、伊勢原市内のNPO団体で学習支援のボランティア活動に参加していると言います。ただでさえ、自分の勉強で忙しい筈なのに・・・その上、彼の口から『学習支援に必要なメモ用紙に東海大学でリサイクルする用紙を寄付して貰えないでしょうか?名付けて〝裏紙活用プロジェクトです』との提案がありました。
『僕たちは解剖学実習で見知らぬ方々からご献体という贈り物を頂き、学ぶことが出来ました。今度はこれを僕たちが返していく番です。頂いた善意にお返しをしなければ…そしてそれを後輩たちに繋げて行きたいのです』と実に爽やかな声で語ってくれました。その瞬間、疲れの溜まった私の目には新たな英気が甦りました。

残念ながらこのプロジエクトは学内業務の安全機密の点から成し遂げることはできませんでしたが、代替え案として大学で使われていない筆記用具などが提供できることになりました。

ご紹介させて頂いたエピーソドはいずれも自分たちに寄せられた無償の善意に応えようとした学生諸君の思いやりに溢れた勇気ある行動です。解剖学実習室では気が付くことの出来ない実習を通しての賜物。そして私達も学生の力を信じる事の大切さも改めて感じています。このような姿は本学の医学教育へのご理解と協力そして信じて静かに見守って下さる会員の皆様の姿に重なります。

最後になりましたが、今春より本学医学部長に坂部貢教授が就任されました。お名前はご存知だと思いますが、解剖学の科目責任者であり、本学の卒業生でもあります。就任以降、いつも医学部長室の扉は解放され、夜遅くまで煌々と明かりが洩れてきます。皆様の真っ直ぐなお心が東海大学医学部の礎を築き、育ててくださっていることに心より感謝申し上げます。

今夏、私はイタリアアルプス東部、イタリアとオーストリア国境付近に広がる山岳地帯にあるドロミテ山塊を歩きました。この地は、2006年にその独特な山容、美しい自然景観、地形・地質学的価値が認められユネスコ世界自然遺産に登録されました。連続的に伸びた山脈とは異なり、島のようにそれぞれ孤立しています。俗に言われるヨーロッパアルプス山脈の中では低い山群ですが、一山一山が凛として空に向かい垂直に切り立つ山の頂は実際よりもはるかに高い印象を与えます。

医学生の一人一人の今が、いつかきっと市井の方々の健全な暮らしをお守りするためのお力になれますよう学生諸君と共に学んで参ります。
同封致しました『思いを紡ぐ…』は解剖学実習を通しての医学生の今が語られ、未来への思いが綴られています。              

2017年酉年がみなさまにとって健やかな年でありますように‼
2016年 親子月

東海大学医学部 献体事務室
遠藤京子 記

学部長(解剖学教授)ご挨拶

ご遺族様代表のご挨拶

イタリア・ドロミテ三郡(世界遺産)

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電話 0463-93-1121 0463-93-1121
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