お知らせ
2022年12月10日
お知らせ
【献体事務室便り】舞い上がれ

このタイトルに、もうお気付きになられた方は多いでしょう。今秋から始まったNHKの連続朝ドラのタイトルです。                                

大空とパイロットにあこがれ、ものづくりの町・東大阪と自然豊かな長崎・五島列島が舞台となり、さまざまな人との絆を育みながら、空を駆ける夢へ向かい奮闘するヒロインの挫折と再生を描いたお話しです。

“向かい風を受けてこそ高く飛べる!”                                         

空を見上げて飛ぶことを諦めないヒロインの物語を通し、明るい未来への希望が私を霜柱の立つ師走の朝へと押し出してくれます。

さて、年末恒例となった漢字一文字に今年は『戦』が選ばれました。                         春先に始まったロシアによるウクライナ侵攻や、北朝鮮によるミサイル発射など、今年は戦争への意識が高まった一年でもあり、またサッカーFIFAワールドカップ(W杯)での日本の熱戦、円安や物価高との戦いなど、良くも悪くも『戦い』が多い年でもありました。

そして今もなお、極寒のウクライナの国民は警報のたびに近くのシェルターに避難し、着弾の恐怖に怯えるだけでなく、停電が起きると寒さに震え、朝食も取れないという市井の人々の何気ない日常も壊され続けてこと。
また対戦国であるロシアの『母の日』(十一月二十七日)には、ロシア動員兵の母や妻が『息子や夫を家に帰してして』と弾圧される危険を冒した上で切実な訴えを起こしていることが報じられていました。

そんな悲しいニュースに心を痛め、悶々とする日々に、本学の献体登録会員様の見事なまでの生き様に勇気 づけられ、大きな感動に震える出来事がありました。ここにご紹介させて戴きます。

ほんの数日前のお話しです。数年前に卒寿を迎えられたH様は五年前に最愛のご主人様が本学に献体なされ、お役目を果たされた後は相模湾へ散骨をされました。
時折、届くお便りにはご主人様との楽しい思い出が綴られ、涙の跡がありました。また時にはお電話口で、誰の手も借りることなく、規則正しい中にもユーモアたっぷりの日々の暮らしぶりをお話ししてくださったこともありました。

そんな中、ご本人様から『今日は体調が整わない』とのお電話があり、私は『直ぐに救急車を呼んでください』とお伝えしました。

今、思えばよほど体調が芳しくなかったのでしょう。ご自身で救急車を呼ばれ、病院に搬送されました。その手の中には献体登録証をしっかりと握りしめておられたようです。そして、何度も何度も、傍らの看護師に『自分に何かあったら、すぐに東海大学へ連絡して』と懇願されていたとのこと。
その後、容体も落ち着き、入院の準備をしている最中に病状が急変、数時間後、静かにその生涯を閉じられたとの連絡が搬送先の病院から入りました。その連絡に私は言葉も出ませんでした。最後まで自分の意志を貫き、身体がどんな苦しい状況でも肩身離さずに携えてくださった献体登録証はH様の人生を生き切った証でもあったのでしょう。

また、少し日は遡りますが、十月に開催された解剖慰霊祭のご遺族代表のご挨拶では献体されたN様の  お嬢様から『闘病中の母が亡くなる数日前、眠りから覚め、薬で朦朧としている中、自分はもう亡くなっていると錯覚し、私に「病院に電話した?献体!献体!」と言った事がありました。
どれほど強い想いをもって献体を希望し、闘病していたかを改めて実感した出来事でした』とのお話しに、会場内のあちらこちらから嗚咽が洩れ聞こえてきました。

冒頭のパイロットを目指す朝ドラのヒロインの言葉の中に

『乗客のみなさんには、それぞれ行きたい場所があって・・・                                会いたい人がいて・・・                                                         見たい景色があって・・・                                                    そんなことを考えていたら飛ぶのが楽しくなってきました。私は誰かの喜ぶ顔が好きです』

みなとみらいを後方に横浜港を出発する『にっぽん丸』

先のお二人のご献体への思いがこれに重なります。
昨夜、大型客船『にっぽん丸』が三年ぶりに横浜港からインド洋の島国モーリシャスへ向けて国際出港しました。少しずつ、これまでの日常が戻りつつあります。
先にご紹介した本学の解剖慰霊祭も今年三年ぶりに開催することが出来、二七一柱の御霊に感謝とご冥福の祈りを捧げました。ご参列戴いたご遺族数は五二家族、延べ人数は一二七名、大学側からは医学科、看護学科の学生約三二〇名、教職員二五名と例年に比べるとかなり縮小し、開催時間も三十分短縮しました。

しかし、参列された方々のどのお顔にもこの日を待ちわびていらしたご様子が伺え、学生諸君も三年という歳月の中で大きく成長をしながら、解剖学実習の日々を回顧する時間が与えられたことでしょう。              ご遺族の方々に感謝の意を込めて、初夏から、歓迎演奏のためにピアノやバイオリンの練習に励んできた学生、厳しい臨床実習の合間に、感謝の言葉を紡いだ学生、慰霊祭当日の誘導や案内を自ら申し出てくれた学生諸君。また、ご遺族様からは不変則な実習期間に対して、一言も不安や心配のお声も上がらず、それ以上に、心熱き声援を戴きました。みなさまには心から感謝申し上げます。
なお、ここに解剖慰霊祭での学生代表およびご遺族さまのご挨拶を同封させて戴きます。

新しい年においても、まだまだ向かい風を受けることも、追い風に押されることもあるかと思います。       そんな時こそ、思いっきり胸いっぱいの深呼吸、感謝の心呼吸をして、行きたい場所、会いたい人、見たい風景、そして誰かの喜ぶ顔を思い浮かべ、高く高く飛んでいきたいと思います。                                                            どうぞみなさま、良い年をお迎えくださいませ。

令和四年 年積み月
東海大学医学部献体事務室
遠藤京子

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電話 0463-93-1121 0463-93-1121
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