お知らせ
2018年12月20日
お知らせ
【献体事務室便り】目にうつるすべてのことはメッセージ

平成最後の年末となりました。みなさまいかがお過ごしでしょうか?
今年ほど天変地異の恐ろしさを感じた年はなかったのではないでしょうか?地震や酷暑、台風が日本各地にこれでもかと爪痕を残していきました。被災者の方々の届かない苦しみや悲しみもいまだあるでしょう。それでも新しい年はそこまで巡ってきています。
お忙しい時期とは思いますが、献体業務に灯った温かいお話しに少しの間、手を止めて戴けたら嬉しいです。

コスモスが揺れる晩秋の午後、ご献体者の方をお迎えした時の出来事です。
五年間に及ぶ闘病生活の末、残された時間がそう長くはないと悟られた患者様本人からお世話になった  本学に恩返しをしたいとお申し出を戴いたのはお亡くなりになるわずか二週間前の事でした。還暦を過ぎたばかりの鍛え抜かれた大きな身体、はっきりした口調はこの方のこれまでの人生を物語っているようでした。

ご本人様の口から『これまでの人生にとても満足して生きて来れました。今はただただ、社会にそしてこの東海大学のお役に立ちたい。ただ九〇歳になる認知症の母を残していく事だけが心残りです・・・』大きな身体に吸入器をつけたお身体が震えていたのは今も鮮明に思い出されます。
大学でのお別れには卒寿を超えたご両親とそこに寄り添う妹さん、弟さんが来校されました。彼が最後まで心配していた認知症のお母様は車椅子にお座りになり、目はうつろな様子。
はた目からもどの位、この事実を受け止められているのだろうと案じていました。

書類の手続きとご納棺、そして最後のお別れ・・・
その瞬間に、お母様がすっと立ち上がり、棺の前に立ち尽くされたのです。それだけでも、傍らにいる人々は驚き、言葉を失っていました。もちろん私もです・・・そして、棺の中の息子様に向かって頭を撫でながら
『悔しかろ、苦しかっただろ、何でお前がこんな目に合わなきゃならないのかねえ。
私が悪かったんだね。もっと美味しものをうんーと食べさせてやりたかった。
私のもとに生まれてきてくれてありがとう』
とはっきり仰ったのです。

これまで、ご本人様やご家族様からも、お母様はご自身の意思表示をすることも献体について理解することも難しいかも知れないと伺っていました。しかし、お棺にすがり、泣き崩れる姿は、まさに最愛の息子を亡くした母親の姿です。失礼ながら同席していた誰もがあっけに取られていたと思います。
そしてそれどころか、驚き顔の私の手を取り『この子が役に立つんだね。息子を宜しくお願いしますよ』と何度も深々と頭をお下げになられたのです。
介護や認知症が時には家族の重荷になることは多々あるけれど、こんな瞬間もあるんだ。改めて、人間の素晴らしさや残された中にも可能性があることを噛み締めました。

件の出来事を解剖学科目責任者の坂部医学部長に報告したところ『認知症のご本人は言われていることは頭の中では理解できていることもあるが、それをすんなり上手に行動に移したり、言葉に出来ないだけであるという論文も出ています。そういうことも踏まえて献体業務を遂行してください。今や誰もが通る道です』とのコメントを戴きました。

私事になりますが、先日、松任谷由実(通称ユーミン)のコンサートに出掛けて参りました。
彼女の四十五年間におよぶ音楽家としての活動を通して社会の一員としての役割・・・聞き入りながら人それぞれの役割を考えさせられました。ここに先程の『母は母の・・・』』子どもは子ども・・・』としての役割が腑に落ちたのです。

最後のアンコール曲では場内の一万人にもおよぶ聴衆の方々との大合唱をしました。その歌詞の一節に
『小さい頃は神様がいて不思議に夢をかなえてくれた。やさしい気持ちで目覚めた朝は、おとなになっても
奇蹟はおこるよ・・・目にうつるすべてのことはメッセージ・・・』とあります。
私たちの日々の暮らしの中で目に見える耳に聞こえるすべてのことがメッセージと 考えると、まだまだたくさんの役割とお仕事が皆様にもあると思います。

今夏、ヨーロッパアルプスのトレッキングした途中に、四十℃を超えた酷暑の日本のニュースが入りました。ちょうどその頃、私は二〇〇一年に世界遺産に登録されたスイス・ヴァレー州にあるアルプス山脈最大のアレッジ氷河を見下ろしていました。
この氷河を取り囲む九つの山頂はいずれも四千m級で、氷河の長さは約二四キロ、面積は百二十㎡にも及び、水の総重量は二百七十億トンにもなります。しかし、こんな壮大な自然も地球温暖化の影響を受け、このままのペースで温室効果ガスの放出が続けば、アルプスの氷河の八十%が失われるだろうと言われています。それに加えて今年四月から七月にかけたスイスの天候は、百五十年ぶりの異常高温と乾燥になり、氷河の融解が進み一日あたり十cm以上のペースで後退してしまっているようです。

こうした地球環境の変化に伴う私たちの果たすべき役割を共に考えていかねばならない新時代の幕開け・・・献体業務同様、みなさまのご意見やお話しを伺いたいと思っています。

どうぞ、来る年もみなさまが興味と好奇心に溢れた素敵な年でありますようお祈り申し上げます。                        
併せて解剖慰霊祭での学生の感謝の言葉、ご遺族様からのお言葉も一緒に同封させて頂いております。

二〇一八年 春待月
東海大学医学部献体担当
遠藤京子 記

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電話 0463-93-1121 0463-93-1121
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